真岡市荒町の真岡木綿会館(坂田伸朗館長、60歳)では、かつて隆盛を誇った真岡木綿の文化技術を未来に継承するため、ワタの栽培から加工までを14人の織姫が手作業で行っています。
機織りの工程見学や染色体験に加え、技術者養成講座を開設するなど地域に根差した伝統を今に紡いでいます。

ワタは同市の市花にも定められるアオイ科の植物です。熱帯原産だが温帯域でも広く栽培されています。
真岡木綿は丈夫で質が良く、絹のような肌触りが特徴です。江戸後期には年間38万反を生産し、「真岡」と言えば木綿を指していたほど隆盛を極めました。しかし、開国に伴い、安価な綿が輸入されると次第に衰退してしまいました。現在では同館のワタ畑の他、市内の農家1軒が委託栽培するまでとなっています。
こうした歴史を背景に1986年、真岡商工会議所が中心となり「真岡木綿保存振興会(当時)を」設立しました。現在東郷地区と山前地区の畑計20aで年間約100kg(種付き)ほど収穫している。

収穫したワタを糸に紡ぐまでは全て手作業です。製作には15以上の工程を踏みます。
播種は5~6月初旬で、水はけの良い土なら砂地でも栽培可能です。開花から約40日後に実が熟し、ピンポン玉大の綿毛に包まれた種子が外に吹き出されます。「ネキリムシやカメムシに注意し、できるだけ農薬を使用せず、自然に任せて栽培しています」と同館の伝統工芸士の花井恵子さんは話します。
8月中旬から収穫を開始します。糸紡ぎ、精練、糸染めなどの工程を経て糸となります。特に糸紡ぎは同館によると、「糸とり三年、織り三月」と言われるほど難しい作業で、ワタ10gを紡ぐのに熟練者で約1時間かかるといいます。
「蚕や羊毛から作られる糸は身近だが、植物から糸が作られるというのは意外とピンとこない方が多いです。土から生まれて土に還るということを念頭に、自然に近い形で製作しています」と花井さんは話します。

同館では同市の「天の織姫市」などのイベント参加や、市内小学生への課外授業なども受け入れており、4月からは種子、7月からは苗の無料配布も行い、ワタのPRに余念がありません。毎年個人や企業から多くの注文があるといいます。
「多くの方に真岡木綿の素晴らしさを知ってもらい、使っていただきたいと思います。ぜひ会館で、おとぎ話の中の手織りの音を楽しんでください」と坂田館長。同館で製作された商品は、真岡鐡道真岡線・真岡駅や市内の観光物産館などの他、東京ソラマチ内「とちまるショップ」でも販売されています。
真岡木綿会館
住所:真岡市荒町2162‐1
電話:0285‐83‐2560(体験は要予約)